第6回定期演奏会では、〜 “ほぼ” Made in Japan 〜 と題し、吹奏楽が日本にもたらされて150周年の記念を、やまもも流にお祝いします。
日本の吹奏楽史を彩った名曲、耳馴染みのある人気曲、そして、新たな時代を切り開く最新曲と、幅広いラインナップでお贈りします。
その最新曲こそ、今回インタビューさせていただいた福島弘和さんの「交響曲 ト調」。吹奏楽作曲家として名高い福島さんが初めて手がけられた“交響曲”です。
どのように生まれ、どんな聞き所があるのか、その魅力をお聞きしました。
※当記事で取り上げる「交響曲 ト調」は2019年2月17日に開催される第6回定期演奏会で演奏いたします。演奏会チケットはページ最下部のボタンからお申し込みいただけます。
福島弘和 Hirokazu Fukushima
東京音楽大学卒業、同大学研究科修了。作曲を有馬礼子氏に師事する。現在、オーケストラ、吹奏楽曲を中心に作編曲活動をする。演奏にパフォーマンスやコメディーをとりいれたアンサンブル・ポワールを結成し、ユニークな演奏活動を行っている。
1997年≪稲穂の波≫で朝日作曲賞入選、1999年≪道祖神の詩≫で朝日作曲賞を受賞する。2003、2007、2012、2013、2015年下谷奨励賞受賞。第20回日本管打・吹奏楽アカデミー賞作・編曲部門受賞。2001年度群馬県で行われた、国民文化祭や2008年全国高校文化祭の吹奏楽創作曲を担当。21世紀の吹奏楽“響宴”会員。
甘粕宏和 Hirokazu Amakasu
東京音楽大学卒業。中学2年時に受けた八田泰一氏の指導に衝撃を受け、中学3年時での小澤俊朗氏との出会いがその後の人生を決定付けた。大学在学中は汐澤安彦指揮シンフォニックウィンドアンサンブル団長として活躍。アンサンブル・ミュルミュール木管五重奏団としてこれまで5度のリサイタルを開催。現在はバンドディレクターとして全国各地で、また日本吹奏楽指導者クリニックを始めとする各種講習会講師や審査員などをつとめている。ユーモアあふれる実践的な指導や講習は各地で好評を博している。
現在、神奈川大学吹奏楽部、東京都立片倉高等学校吹奏楽部、柏市立柏高等学校吹奏楽部、柏市立酒井根中学校吹奏楽部をはじめ全国数多くのバンド指導に携わっている。スポーツ祭東京2013(東京国体)式典音楽の編曲、開閉会式指揮を担当した。2015年日韓国交正常化50周年記念事業として韓国ソウルにて現地青少年オーケストラを指導、指揮し絶賛される。
吹奏楽を小澤俊朗氏に師事。
これまでに、フルートを中野真理、梅津正好、本田幸治の各氏に、室内楽を浜道晃、笠松長久、篠崎史子の各氏に、指揮を近藤久敦氏に師事。A.ニコレ、C.ラルデ、M.M.コフラーらのマスタークラスを受講。
21世紀の吹奏楽“響宴”会員。やまももシンフォニックバンド指揮者。愛犬家。
インタビュアー:森永卓 Takashi Morinaga
武蔵野音楽大学テューバ専攻卒業。やまももシンフォニックバンド事務局長。第1回旗揚げ演奏会の準備期間に、すでに団員だった友人のお誘いで出演。甘粕さんの、魔法使いのようにサウンドを変えてしまうコメディー指導法にほれ込んでそのまま団員に。そして気づけば運営部に。さらに気づけば事務局長に。とズブズブとやまももの中枢に引き込まれて今日に至る。福島作品との出会いは、高校時代の課題曲。「稲穂の波」(※自校では演奏せず)、「道祖神の詩」はまさに青春の1ページ。
●12月某日。「交響曲 ト調」吹奏楽版の練習を福島さんに初めてお聴きいただいたあとのランチタイム。
これまでにも「ホルン協奏曲」の初演(第3回定期)や、「クラリネット協奏曲」の初演(第4回定期)、「戦場から妻への絵手紙」のスライド付き上演(第5回定期)など、毎回の演奏会で素晴らしい作品を演奏させていただいていますが、今回、福島さんとしては初の「交響曲」を演奏させていただけることはとても楽しみにしています。これまで、“福島弘和といえば吹奏楽の作曲家”というイメージが強かったと思うのですが、オーケストラでの演奏を想定した曲を書かれたきっかけや経緯はどういったことなのでしょう?
群馬県太田市にある太田市民会館がリニューアル開館するということで、2017年11月のこけら落し公演で演奏する曲を、と“おおたアカデミーオーケストラ”から依頼されました。おおたアカデミーオーケストラは、おおた芸術学校の生徒(小学生~中学生)と講師らで編成される団体で、私はそこでオーボエ奏者としても関わらせてもらっていますので、繋がりが深いわけです。そこで生まれた、編曲や語り付きの作品も多くあります。
では最初からオーケストラのための曲、ということは決まっていたんですね。
そうなんです。依頼の段階からそれは決まっていましたね。
普段吹奏楽の作品を中心に書かれていらっしゃるので、オーケストラの作品となると少し視点なども変わってくるかと思うんですが、苦労された点などはありましたか?
とにかく長いんですよね(笑)吹奏楽だと長くても10分程度の曲が多いですが、今回の作品のように40分もの長さで、自由に書いていいよと言われると、逆に困ってしまいました(笑)
40分というのは、それも決まっていたんですか?
決まっていました。むしろ「40分以上の曲」というオーダーです(笑)
ですので、どうやってその40分を埋めるか(笑)人間ある程度縛りがあった方が良いアイディアが出てくると言われますが、まさしくそれで、演奏時間も余裕があってテーマも自由となると、かえって何も出てこないんですよー(笑)
三善晃さんも確か岡山シンフォニーホールの開館記念委嘱作品で「魁響の譜」を作曲されていましたけど、それと同じですよね。お祝いの曲。
そうですね。
その自由度の高い難しいオーダーを、どのように形にしていかれたんですか?
吹奏楽の場合には、コンクールでの演奏を目的とする場合が多いので、派手で聴き映えのする曲を書く、という何となくのテーマはあるんですけどね。〇分以内で、と依頼されることはあっても、40分を超えてほしい、という依頼は初めてでした(笑)
ただ、作り始めてみるといくつかモチーフが浮かんできて、それらを組み合わせているうちに、自然と大曲になっていた、というのが正直なところですね。3楽章(パッサカリア)は少し長めにできてるかもしれません。
3楽章のパッサカリアは、むしろあれくらいの尺がないと物足りないと思います! 冒頭からテーマを繰り返し演奏するバスクラリネット担当の中島さんは、吹きっぱなしで譜面を見た当初は驚いたみたいですけど(笑)今では一番好きな楽章だと話しています。自分が主題を演奏している間に、周囲で起こる様々な変化を俯瞰できるという感じなんでしょうね。
初演時のプログラムノートに、作品の事を熱く語っていらっしゃいました。普段あまり作品の事を詳細には語られませんが(笑)なぜあの時はあんなに熱いコメントが出てきたんでしょう。
あれは曲ができる前に書いたものだったから、書くことに困って(笑)そしたらあんなことになってました(笑)
生まれて消えてゆく音は、人生に似ている。生まれた音(人、自分)は、音(他人)と出会って響き合う。交響とは、お互いの人生に響き合うこと…。おおた芸術学校に携わって早10年以上、矢野先生をはじめ多くのアカデミーオーケストラの皆さんとは長年、互いに響きまくってきたので、今更、交響曲を書かずとも響きまくれるとは思うが、今回、書く機会をいただき、大変、嬉しく光栄に思う。新生、市民会館にアカデミーオーケストラの皆さんと共に響きまくれる曲を書きたいと思う。
先輩が普段言わなそうな言葉だったのでびっくりしました(笑)
先輩は語り付きの作品などで、高い演奏技術を必要としない作品もたくさん作られていますが、何でも喋りたくなる僕みたいな人間からすると、「こんなにシンプルでいいのか⁉︎」と時に思っちゃう(笑)。もっとたくさんしゃべりたい!音符で埋めたい‼︎と思っちゃう。片や今回の交響曲のように壮大な曲もお書きになる。
どっちもできないと作曲家としてはだめでしょうね(笑)
語り付きの作品は、言葉があるから、それを邪魔しないように音楽は極力シンプルにしています。
シンプルでありながら、素敵な曲に仕上がってるのが素晴らしいなぁと思います。それに演奏者が無理なく演奏できる。読みやすいというか、人の感性に寄り添っているというか。転調したり臨時記号が付いたり、普通はややこしく感じるところも、先輩の曲はスルッと入ってくる。
今回ご自身の作品を吹奏楽版に編曲していただいたわけですが、抵抗感とかはありませんでしたか?
ありましたねぇ(笑)普段そういった編曲はよくやりますし、全く意識したこともなかったんですが、いざ自分の作品で編曲をしようとすると、正直葛藤はありました。弦楽器のサウンドをイメージして書いていますので、それを吹奏楽に置き換えた時にどの楽器にしようか、印象が変わってしまうんじゃないかと頭を悩ませました。
オーケストラはとても繊細で透明感のある音が特徴ですし、吹奏楽は密度の濃い力強い音が魅力です。今回吹奏楽版にアレンジして、練習も聞かせてもらって、作品の魅力や本質はそのままに、オーケストラ版とはまた違った音の密度を感じられると思いました。
今回こうやって、やまももでフルバージョンをガッツリ演奏させていただけるというのは、本当に幸せなことですし、改めてこの作品の奥深さや、豊かな色彩感、魅力的なモチーフを余すことなく味わえる気がしています。
そうですね。40分間聴いた上での答えというか、聴いてくださった方の心に残るものがどういったものなのか、それを楽しんでもらいたいなぁと思います。
福島さんの作品は、タイトルにテーマが表現されているものが多いですが、今回のように明確なテーマが表れていない曲というのは聴く人によっても受け取り方が変わってきますよね。
そうですね。実は初演の時の演奏を、いろんな方に聞いてもらったんですが、誰一人として同じ感想を言わないんです。それがとても興味深くて。今回のやまももさんの演奏が、お客様にどう伝わるのか、とても楽しみです。
やまももってほんわかした雰囲気で、親しみやすい曲を選曲することが多いですよね。そんな中、今回の「交響曲」は、ズンと重量感が増したような気がします。かなりチャレンジング!
確かに。
正直、クラシック慣れしてる人でも、40分の曲を集中して聞くというのは少々心構えが必要ですよね。僕の場合も長い演奏会では途中寝てしまうこともあります(笑)きっとこのインタビューをお読みの方も、集中力が持つか心配されていることと思います。何か聞き方のポイントとか、楽しみ方のヒントがありましたらお聞かせいただけますか?
4つの楽章(特徴の違う短い曲)が合わさってできていますので、それぞれの楽章の雰囲気やスピード感、メロディの違いなどを、おもちゃ箱の中を覗き込むように楽しんでいただけたら面白いかなと思います。
1楽章の「アンティフォナ(交唱)」では、まず1楽章のモチーフが流れた後に、2楽章と3楽章のモチーフも登場します。先の楽章の先取り、ご紹介、といった感じですね。アンティフォナとは聖歌の隊形の1つで、2つの合唱が交互に歌うことを指します。様々なテーマが、反響のように様々なところから響きあう様子を表現しました。
2楽章の「スケルツォ」は、イタリア語で「冗談」という意味。多くの交響曲で使われる楽章名ですが、テンポが速かったり、ユーモアのある曲になっている事が多いです。この作品でも、早いテンポで色んな楽器が交互にリズムを奏でることで、軽快な印象に仕上げています。
3楽章の「パッサカリア」は、先ほども少し話に出ましたが、根幹となるテーマが繰り返し演奏される中で、少しずつアレンジ(変奏)されていく曲です。最初は飾り気のない、純なテーマですが、そこにだんだんと音が重なり、リズムも複雑になっていきます。その変化を追っていただくと面白いと思います。
そして終楽章の4楽章「トッカータ」では、それまでの楽章とはガラリと雰囲気を変え、リズミカルで細かい動き満載の、にぎやかで華やかな楽章です。ドラマチックなモチーフが重なり合って感動的なフィナーレになっています。
ありがとうございます。こういった特徴を耳で追いながら、探しながら聞いていただけるとより楽しめるかもしれませんね。ありがとうございました。